2017年10月6日金曜日

『シルヴィ、から』 32

 複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩
 [1982年作]   

 (第十九声) 1 

 声よ、いかにもその通りだ。シルヴィ自身の態度に彼女の心をさぐるのが、最上で確実な方法に違いない。
 そして、それは実行されたといっていい。
ーいや、実行するというよりも、向こうから、運命とでも呼ぶ他ない漠とした遠くて近いところから、どのような刃物よりも精妙に計算ずくの傷を心に刻む短いセリフかなにかのように、投げ込まれたというべきかもしれない。
声よ、おまえにはいくらか辛いことを、わたしは語らねばならないようだ。
まあ、心配するな。
わたしはことさら意地悪く語るつもりはない。
事実だけを、ごく簡潔に教えてやろうというだけだ。
手早く片付けるさ、辛いことはな。
そして、そのようなものには、もう二度と見向きもしないのが一番というもの。

 翌日、昼食後の自由な時間、わたしは、中に室内プールがある薄汚れたコンクリートの建物の脇の小道を通った。
その道を向こうから、シルヴィと、その後をもうひとり、彼女と同郷の娘が歩いてきた。
「やあ、シルヴィ」と、わたしは努めて陽気に声をかけた。
うつむいていた彼女は一瞬わたしを睨んだが、ただそれだけで、挨拶を返すことさえせずに、顔を強張らせて行ってしまった。
かわりに、もうひとりのほうの娘が、「こんにちは」とわたしに挨拶を返した。彼女はドゥニーズといった。
 わたしはしばらく立ち止って、シルヴィとドゥニーズが離れていく後姿を見ていた。
風の強い日で、建物の壁沿いに下から吹き上がってきた風が、何度かわたしの顔を払い、髪を乱した。
その都度、髪を掌で撫でつけながら、今、シルヴィが示した態度をはっきり掴み直そうとした。
シルヴィはわたしのことを睨んだ時、やはり風がシルヴィの髪をいたぶって、頬に叩きつけたことを思い出した。彼女はすぐに髪を後ろへ手で払って、眼差しを小道の砂利の上に落とした。そして、そのままわたしになにひとつ言わずに通り過ぎた。

(続く)



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