人どうしがたがいを思いやって
大事にしあい
慈しみあうような時は
来ないのだろう
この世界には
望んでも無駄だとは言わない
望んでしまい
望み続けるのも
おそらく人の本能だから
ふつうの人たちが
ふつうのよき人と見える人たちが
どんなに醜いか
どんなに冷酷か
残虐か
わたくしはもう若年の頃に見尽してきた
それはそれはひどい傷を
わたくしは心に負ってきた
だから
平気で言う
言える
人どうしがたがいを思いやって
大事にしあい
慈しみあうような時は
来ないのだろう
この世界には
と
そうして
いい歳をしても
そんな夢世界を望む人びとが
わたくしよりも
ずいぶんと恵まれた
甘い甘い人生を送って来たのが
よぉく見える
井の中の蛙に過ぎないのが
おゝ神よ
人間はほんとうに変わりません
いつまでもいつまでも
他人を見捨てるのに秀でて
他人より一ミリでも高見に立とうとする
そのためには
他人の不幸も死もなんとも感じない
遠い異国の戦乱には憤慨しても
同じ職場の差別には目を平気で瞑れる
街の舗道にホームレスが倒れていても平静に通り過ぎる
そんな人たちが
人類の未来だとかなんだとか
大勢で集まってペットボトルの天然水とやらを飲みながら
語りあっていたりする
夕方になればシャンパンが出てくるので
天然水もいつもよりうまく感じる
わたくしは先進国の住人としては誰よりも不幸だったので
人類の未来だとかなんだとか
そんな話は誰とも交わしたりはしないが
見えるものは見て
聞こえるものは聞く
だから何かがどうなるというのではない
何かをどうにかできるなどと歯の浮いたことも思わない言わない
たゞ
見えるものを見て
聞こえるものは聞く
古代ギリシアの奴隷制度の上にのみ危うげに機能した民主制の
近代的移植措置が徹底崩壊に向かっていく過程も
見聞きし続ける
目さえ開いていればよく見えるから
耳さえ開いてればよく聞こえるから
もちろん
目が開いているかどうかは問題だ
耳が開いているかどうかは問題だ
目が開いていて
耳が開いているのを
信じてなどいやしない
信じること
思い込むこと
思うこと
感じること
それらがまやかしだということには
どうやらちょっと
目が開いているから
耳が開いているから
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