めったに上ってこない
デパートのレストラン階であった
日も暮れたものの
夕食まではしばらく間のある
いくらか
人もまばらになった
微妙な時間帯
車椅子を押す
いたく背の曲がった老人がいた
あまりに
背が曲がっているので
車椅子とほぼ同じ高さに見えるほど
本来ならば
この老人こそ車椅子に乗せられ
押されていくべきようにも見えるほど
よたよたと力なく
押していく
誰が乗せられているのかと
追い越しざまに見ると
…女性
とはいうものの
まず目に入るのは太い黒縁のメガネ
腿までむき出しの両脚
ソックスなし
ばらばらに散った長いゴマ塩髪
服はなにを着ているのか
Tシャツのようだが
その上になにか羽織っている
色や柄に配慮して着ているというのではなく
あり合わせのもの
杖を片手には握りしめて
老夫婦なのか…
それにしても
これはまた
ずいぶん変った一組
と
いたく興味をそそられ
もう少し追い抜いてからふり返ると
ずいぶんな老齢らしいのに
穿いているのはミニスカート
なのに
車椅子だからか
股をおっぴろげて
あられもなくパンツの白が開示されている
これは奇態な
奇態な
と
もっとよく見ておこうと
足をはやめ
もう少し距離をとってから
ふたたびふり返ると
いなかった!
通路の両隣りにはレストランの
店舗がいろいろ
しかし
ちょうど入口のないあたりで
どこかに入ることはあり得ないのだが
いなかった!
あのふたりは何者?
いたく背の曲がった
老夫らしい人と
脚を剥き出しにし
あられもなく股をおっぴろげた
老妻らしい人は?
幻か?
老いの幻?
それとも人間の真相の
一瞬の顕現?
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