2017年10月16日月曜日

きっと食事時に煙草を吸わない彼氏を見つけたんだろうな

 
小津安二郎の『非常線の女』*には
23か24歳のまだ若い田中絹代が
博多人形のような顔をして出ていて
ぼくのお婆さんらより年上のはずの
ほんとうに古い古い人だというのに
いわゆる美人というのとはちがった
ふしぎな可愛さと清々しさがあって
ほんとうに古い古い人だというのに
時間を超えて惹きつけられてしまう

この顔によく似た顔の女子大学生が
昔知りあいにいたが悩んでいたのは
家での食事のときにお父さんや兄が
肘をついてずっと煙草を吸いながら
食べ続けることで「煙草を吸わずに
三度三度の食事をしてくれる彼氏が
わたし欲しいんです。わたしは煙草
きらいなものですから。」と言っては
「すいません。つまらない変なことを
グチっちゃって。」とあやまっていた

大学を卒業してからは音沙汰もなく
こちらも忘れかけていたのだけれど
ある日舞い込んだ白っぽいハガキは
「結婚いたしました。」というもので
やさしそうな彼氏と笑顔いっぱいの
彼女がたくさんのハートに包まれて
写っていたから早速返事を書こうと
文面を考えはじめたら思い出されて
くるのは家での食事時の煙草のこと
もちろんその事には触れなかったが
きっと食事時に煙草を吸わない彼氏
を見つけたんだろうなと思いながら
しばらくはふたりを見つめつづけた


*小津安二郎『非常線の女』、1933



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