2017年10月15日日曜日

もう逃避することもできなくなった人類の末裔のぼくたちの時代と未来の中で

主よ、わたしの魂を助け出してください。
偽って語る口から、欺いて語る舌から。
詩編120-1
  
もう何十年も前のことながら
ふいにありありと蘇ったシチュエーションは
これは確かに
池袋駅西口の駅の階段に向かう時のことで
もうそこに階段が見えるあたりのことで
ぼくはその頃の
と思っていた男に

 だって、子供を持つなんて
 自我の問題からの逃避だものね……

声高にではなく
そう確信ありげにでもなしに
呟くように告げたのだった

どうしてそんな話題になっていたのだったか
もうわからないし
そんなことを告げた時点でさえ
コンテクストなどどうでもよくなっていたのかもしれないが
ふいに今
つよく鮮烈に
冷たい澄んだ水のように記憶の壁を切断して
時間と意識のこちら側に
突き刺さって来た

人それぞれとか
人生いろいろとか
思うにまかせぬものでもあれば
然るべきように意外と行っているのが人生だとか
そんな言い逃れ方を
いくらでも知っている今のぼくは
自分の過去の発言のふいの蘇りになど
もちろんいくらもたじろぎなどしないのだが

思うのだ、それでも
あの言葉は世界に突き刺さって
たぶん
本当にその後の人類を呪ったのだと

なんと大げさな
なんと奇妙なことを
と他人は言うに違いないし
海千山千とさえ形容できそうになった今のぼくは
さらに
自分で大笑いしてしまうところだけれども

しかし
なんと直球で正しい言辞だったかと
かつての自分の若さに瞠目してしまいもする

 だって、人類が人類の子供を持つなんて
 人類の自我の問題からの人類の逃避だものね……

こういう意味で受け取ってしまうから
どんなに軽く読もうとも
旧約聖書的に耳に響いてしょうがないのだ

逃避の果て
逃避の連続の末に
もう逃避することもできなくなった人類の末裔の
ぼくたちの時代と未来の中で



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