2020年5月21日木曜日

ぼくは生まれる

 

けっこう詳細な地図を携えて
細い通りからさらに細い通りへ
進んでいく
などというほど確かな足取りではもちろんなく
彷徨っていく
などというほどドラマティックな格好が
ついているわけでもなくて

ぼくは生まれる
道から道へとなんの見通しもなしに
とりあえず
いちおう
しかたなしに
期待のまったくないわけでもなしに
進んでいきながら

ぼくは生まれる
もう人間としてとか新たな生としてなどと
歯の浮くようなヒューマニズム印のコピーを洩らしたりせずに
枯れ草や雑草さえ
口にくわえたりもせずに
力の入れ加減もよくわからないまゝ
あいまいに歯を噛みあわせて

ぼくは生まれる
ぼくのことを知っている人がおおかた
死んでしまったり離散してしまった今ごろになって
まるで彼らに本当に伝えたいことがようやく今になって
はじめてぼくの意識の中に稲妻のように降ってきて
それが意味のあることかどうかなどもちろんわからないまゝ
とにかくそのまゝの形で見せてやりたい衝動にこんなにもせっつかれて





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