2022年1月2日日曜日

新年という新しい時間=家の入口で


 

 

Summer surprised us, coming over the Starnbergersee

With a shower of rain; we stopped in the colonade,

And went on in sunlight, into the Hofgarten,

And drank coffee, and talked for an hour.

T.S.Eliot  The Waste Land, 1922


夏はシュタルンベルガーの湖上をわたって
わたしたちを驚かした。わたしたちは柱廊に立って雨やどりし、
それから陽のさすなかを通ってホーフ・ガルテンに入り、
それからコーヒ飲んだ、それから一時間ばかりお喋りした。

 (深瀬基寛訳)

 

 


 

1月はJanuaryだと英語で習い

フランス語ではjanvierだと習い

ドイツ語でもjanuarだと習う

どれもラテン語のjanuariusから来ていて

ふたつの顔を持つ神

ヤヌス神に捧げられた月を意味する

 

ローマ神話のなかでも長老格で

威厳に満ちたヤヌス神は

もともとは専ら家庭の戸口を守る神で

家に入ってくる者を一方の顔で検分し

家から出て行く者をもう一方の顔で送り出す

こうして家の安全を守り

行き来の無事を保とうとする神だった

 

しだいに守備範囲を広げさせられ

町の門や港の警備など

入口全般の守護神とされたのは

まだいいとしても

通り道の神だということから

出産の神もやらされるようになり

ついにはものごとのはじめ全般を

守るようにさせられていった

 

1年のはじまりも任されるようになり

ローマ人は新造の暦の最初の月に

ヤヌスの名を付けてしまうことになった

ローマ人がヤヌスに求めたのは

はじまりの意味だけだったかもしれないが

新年という新しい時間=家の入口で

古い年=家から入ってくる者を検分し

古い年=家へと回顧のために出て行く者を

見守る務めもひそやかに続けているのが

じつはjanuariusであるかもしれない

 

英語のJanus-facedという語の

「猫っかぶりの」という意味や

「裏表のある」という意味を思い出してみると

1月というものの底には

別の意味でふたつの顔を持つヤヌスも

しっかりと潜んでいそうではある

「4月は最も残酷な月」と歌ったエリオットは

ふたつの顔を持つヤヌスの月1月については

どう歌っていたのだったか

歌っていなかったか

 

猫っかぶりの1月

はじまりであるかのようで

じつはなにも永遠に始まらない非情きわまる月・・・

などとエリオットのかわりに

いま此処で歌っておいてやっても

いいのだが





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