2018年3月12日月曜日

ポピーレッドやロイヤルパープルを目立たせて



かっこいい人が
いない

わたしって
いつまでも少年だし
青二才だ
かっこいい人を探している
そうして
ちょっと真似をしようと
心のてぐすね
引いている

自立なんて
してないから

どう生きたらいいか
いまも
わからないから

先日
道玄坂を歩いていて
これは
と思うような
ちょっと
かっこいい人がいた

信号待ちで
いっしょに立ち止ったので
横にいるこの人を
ぼくはしげしげ見続けてしまった

たぶん
六十代後半だろう
長髪を
肩のあたりで切り揃えていて
白髪まじりで
ダークオレンジのスラックスに
マルーンかチョコレートの
皮ジャケットを着ていた
渋谷を歩くにしても
六十代の日本人としては
なかなかのものだ
マフラーは
シーグリーンやポピーレッドや
クロムイエローなどが混じった
厚手のものを巻いていたが
ポピーレッドやロイヤルパープルが
特に目立っていた

静かな顔で
目から額のあたりは
ちょっと神経質そうだったが
それを他人にぶつけるような人では
なさそうなのも見てとれる

ダークオレンジの
スラックスの中の脚は
しかし
ちょっと細々としていて
適切な筋肉運動をしているとは
見えなかった
この細い脚のようすでは
あと十年
健康に生きられるかどうか
わからないだろう

けれども
そんなことなど
覚悟はできている人だろう
服装のこんな程度の自由は
まだ許容されるかのような日本で
それでもこんな格好を
六十代後半になってしていて
道玄坂を歩いている人なら
あと十年ほどで死ぬ覚悟など
できている人にちがいない

道玄坂とか
渋谷のいくつかの場所というのは
そんなところだ
覚悟のできている人が
ダークオレンジのスラックスに
マルーンかチョコレートの
皮ジャケットを着て
マフラーに
ポピーレッドやロイヤルパープルを
目立たせて
細い脚で
歩いていくところだ



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