かっこいい人が
いない
わたしって
いつまでも少年だし
青二才だ
かっこいい人を探している
そうして
ちょっと真似をしようと
心のてぐすね
引いている
自立なんて
してないから
どう生きたらいいか
いまも
わからないから
先日
道玄坂を歩いていて
これは
と思うような
ちょっと
かっこいい人がいた
信号待ちで
いっしょに立ち止ったので
横にいるこの人を
ぼくはしげしげ見続けてしまった
たぶん
六十代後半だろう
長髪を
肩のあたりで切り揃えていて
白髪まじりで
ダークオレンジのスラックスに
マルーンかチョコレートの
皮ジャケットを着ていた
渋谷を歩くにしても
六十代の日本人としては
なかなかのものだ
マフラーは
シーグリーンやポピーレッドや
クロムイエローなどが混じった
厚手のものを巻いていたが
ポピーレッドやロイヤルパープルが
特に目立っていた
静かな顔で
目から額のあたりは
ちょっと神経質そうだったが
それを他人にぶつけるような人では
なさそうなのも見てとれる
ダークオレンジの
スラックスの中の脚は
しかし
ちょっと細々としていて
適切な筋肉運動をしているとは
見えなかった
この細い脚のようすでは
あと十年
健康に生きられるかどうか
わからないだろう
けれども
そんなことなど
覚悟はできている人だろう
服装のこんな程度の自由は
まだ許容されるかのような日本で
それでもこんな格好を
六十代後半になってしていて
道玄坂を歩いている人なら
あと十年ほどで死ぬ覚悟など
できている人にちがいない
道玄坂とか
渋谷のいくつかの場所というのは
そんなところだ
覚悟のできている人が
ダークオレンジのスラックスに
マルーンかチョコレートの
皮ジャケットを着て
マフラーに
ポピーレッドやロイヤルパープルを
目立たせて
細い脚で
歩いていくところだ
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