複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩
[1982年作]
(第八声 アリア)
……まさか、誰かが窓を叩いているわけではあるまい。
嵐のしわざに決まっている。
窓枠を大きく揺さぶって、持って行こうとでもするようだな。
なんという音だ。
その上、窓がこちらへ伝える振動のこの、なんという重み。
これは嵐の重みだ。
嵐の息吹、嵐の血流の、意外にも規則正しい脈の運びが空を下り、 この荒涼としたところに、 寂しさを求めるためのように一軒だけある宿屋の、 そのまた二階の一部屋の、 くたびれ果てたというよりは枯れ果てた、 窓の木枠と歪んだガラスに、独特の大きな震えを行き渡らせる。
そして、窓は、おそらく、 この嵐の生命の躍動の印である震えに乗り移られるに耐えられず、 わたしのほうへ、部屋の中へと大きくも細やかな重荷を、 その都度投げ移す。
わたしは快くおまえのこの重みを受けよう、窓よ。これは、 わたしには重荷とはいえないのでもあるから。
おまえが苦役を振るい落とすたびに、 天の息吹と血のめぐりが直にわたしの血管に流れ込むかのようだ。
雲が流れていく。
嵐はいよいよ盛んに声を張る。
風たちが自らを、ところかまわず投げつける。
雨滴たちと大地が激しくぶつかって抱きあう。
彼らを養っているのと同じ力が、今、わたしにも流れ込む。
目覚めたわたしは、今、ようやく幾重にも目を覚ます。
稲妻は来ないか。
洪水は遠いのか。
海はどこにいるのか。
シルヴィはどこだ。
あの雲の上か。
美しい雲だな。
この嵐の黒い空間の中にあって、 ひときわ白いあの雲はなんの印だ。
なんの兆し。
嵐は終わってしまうのか。
大地から立ち上った諸々の小生意気な者たちを、 激しく地面に打ち据えて省察させる雨たちも、 もう息を止めてしまうのか。
この地から果てまでをも一様に領していた雨の音も、 やがては次第に足踏みを解いていくのか。
シルヴィはどこだ。
わたしはどうすればいいのか。
雲たちの流れゆく大空の河に沿って、隠れ去った陽の向こうへ、 それともあの懐かしい故郷、 じめじめした陰気な青い月の裏側へでも行こうか。
河の端、時を孕む恒久の卵のような、 拳ほどの石ばかりが転がる河原の中に、 どうにか大きな丸い石をでも見つけて座ろうか。
流れの声を聞きながら、朝の来るのを思おうか。
静かな露に濡れでもしつつ。
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