2017年9月7日木曜日

藤子の門の藪を



鹿の伏せている写真を
藤子が送ってきた

いらっしゃらなかった夏
思い出
ちょっと切って
半紙に包んだ黒髪
お待ちしていますから

ふたりにならなかった
夏にも
思い出はあるのか

 若さも
峠を越えると
 黒髪の黒も
 光を
失うと
申しますから

藤子も
萩も
待っているのだろう
つれないのではなくて
季節の切れ目の
ない
わたくしゆえ

 いつものように
 あの藪をかき分けて
 いらっしゃいませ
 庭の戸は
 月夜にはみな開けております
 縁に茶器を出して
 庭の大きなくらがりを
 見つめております

どこを
どのように
生きているわたくしか
次には
どのわたくしを
伴って
藤子の門の藪を
潜って行くことにしようか




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