鹿の伏せている写真を
藤子が送ってきた
いらっしゃらなかった夏
思い出
ちょっと切って
半紙に包んだ黒髪
お待ちしていますから
ふたりにならなかった
夏にも
思い出はあるのか
若さも
峠を越えると
黒髪の黒も
光を
失うと
申しますから
藤子も
萩も
待っているのだろう
つれないのではなくて
季節の切れ目の
ない
わたくしゆえ
いつものように
あの藪をかき分けて
いらっしゃいませ
庭の戸は
月夜にはみな開けております
縁に茶器を出して
庭の大きなくらがりを
見つめております
どこを
どのように
生きているわたくしか
次には
どのわたくしを
伴って
藤子の門の藪を
潜って行くことにしようか
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