2017年9月13日水曜日

『シルヴィ、から』 17

 複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩
 [1982年作]   

 (第十二声)  

   
 連れ?
 わたしの連れですか?
 わたしはひとりですよ。
ひとりで歩いてきて、ひとりでこの宿に入った。
ひとりで眠り、ひとりで出ていくんですよ。

 そうですか? 
これは思い違いかしらん。
確か、あの晩、お泊りにみえたあなたが、ほれ、この階段を上って行くところをわたしがちょっとふり返って見ましたら、女の方があなたの後を一緒に上っていかれたので。
 金の髪の長い人で、ゆったりとした寛いだ服の上からでも、腰の上の美しいゆるやかなくびれ方のわかる方で、お顔はなんともわかりませんが、たいそうきれいな方と思われました。

 そうですか、ならば、きっとわたしの連れでしょう。
わたしのこの長い旅の中で、姿を見たこともなければ、話を交わしたこともない、互いに足音も聞いたことのない親しい道連れ。
にもかかわらず、わたしが一日たりとも思わなかったことのない懐かしい伴侶。
その人の分もお払いしましょうか。
おそらく、わたしの発った後、そして嵐の去った後、力を失った黒雲たちの退いていく下を軽快に滑る白い雲の現われる頃、その人も宿を出て、また歩き出すでしょうから。
さあ、お望みなだけお取りなさい。
その人が宿を出るまでの分として。
その人の出立はいつになるかしれない。
しかし、泊ったからには、いつかは発つのだから。



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