2019年9月5日木曜日

信州の別荘で涼しい時間をなどともう夢想し始めている……


     人間はロマンティストか愚か者に二分される。
                             ヴィリエ・ド=リラダン



朝はやくから会議があったうえ
昼前からは結婚式への出席である
優秀な部下のひとりの結婚なので出ないわけにはいかず
都内某所のホテルに向かい
ひとりで軽いカクテルをバーで飲みながら
ipadに送られてきた企画書仕様の武力攻撃段取り書面に修正を入れ

持って歩いている三つのスマートフォンそれぞれのメールや
LINEに似ているが秘密防衛の堅牢なシステムに届いたメッセージに
/ぼく//あたし/あたい等のキャラクターを使い分けて
(「私」といってもさらに細かく分枝するので
(どの「私」かでときどき迷うが
(まだその点の瞬間的な認知能力は衰えていない
短文返信や「いいね」や「後でくわしく」などの簡易返信を行う
 (「後でくわしく」や「後で話すよ」などの簡易返信表記は
 (私のオリジナルな作成物だが、けっこう便利で重宝している

簡易返信には種類の多い妖怪マークや
高度成長期アニメキャラクターマークや
 (これも私のオリジナルで
(有名なキャラクターをほぼ全部コピーしてマーク化
(でも売り物にしないで完全個人使用なので問題なし
髑髏マークや西洋版幽霊その他おぞましい系マークや
もちろんイエス・キリストマークやナガルジュナマークや
般若心経全漢字一字ずつマークや
 (そのうち法華経あたりまでカバーしたい…
シーア派マークやスンニ派マークや……
国内用にも天照大御神マークばかりではなく
平将門マークや藤原純友マークや2・26蹶起部隊マークもあって
どれも超便利だが数が多くなりすぎて使いこなせてないのは
私自身の能力不足ということになるのか
それとも人間の認知能力や選択能力や行為能力の限界ということか

結婚式披露宴会場ではいくつか空席が目につき
どうしたことかと思っていたら
京急線でトラックと電車の衝突事故があったそうで
どうやら京急を使って横浜方面から来る客人もいたらしい
食べ物にうるさい部下がけっこう真剣に選んだのであろう料理が
何人か分無駄になってしまうのはちょっと痛々しい気がした
シャンパンとしてクリュッグ・クロ・デュ・メニルや
フィリポナ・クロ・デ・ゴワセが出たので
私はこれらばかり飲み続けさせてもらい
せっかく出ていたいいワインを全く飲まないで通したので
得をしたような損をしたような
遊び尽くしたような遊び足りなかったような
ちょっと奇妙な気持ちのままデザートとして出された
栗のテリーヌのマンゴー載せにメロンジュレを掛けたものに到り
そこにウバティーのうちでも最高のものを
これがまたちょうどいいぐあいに美味しく淹れてくれたのを戴いて
多忙極まる2019年9月5日を小さな天国気分で過ごした

シャンパンからデザートまでを心遣いふかく提供してくれたのは
私のテーブルの係だった清城マルロワール嬢で
おや、どちらのお国のお名前かな?と聞くと
はい、父方はサルディーニャ王国の出身で
と言うので、おやおや、それは異な事をおっしゃる
サルディーニャ王国は1861年にイタリア王国になったはずだが
はい、その時に分派したままの小さな勢力が御座いまして……

この世はまさに偶然と神の御心のお計らいとで成り立っているものだが
これはまた不可思議な御仁との巡り合わせ……

ということで
それではお仕事の終わった後でちょっとお話でも、と
ロビーの
はじめにカクテルを引っかけたバーで待ち合わせすることにし
今そこに向かう途中だが
夕方のテレビを付けている一角がロビーのトイレ近くにあり
例の京急線の事故について
コメンテーターたちがしゃべっているのが聞こえる
それによれば京急は踏切廃止を精力的に進めてきていたから
今回の事故は偶然が重なった不幸な事故とみるべきだということで
そもそも京急は線路幅が広くてスピードが出せて……云々
それを聞きながらテレビ画面を見ると
破損して倒れた列車車体に1000というのが見え
あゝあれは京急1000形列車のアルミ合金製2代目だなとわかる

私は鉄チャンではなくて鉄道に詳しくはないが
結婚していないものの私の妻というべきものだった藤村祐美江の子
荘太朗(これはあきらかに私の種になるものではないのだが
なぜだか私にことのほか懐いてこちらも自分の子のように感じていた)が
どういうわけだか子どもながらに大変な鉄道マニアで
会ったときには年がら年中鉄道関係の話を聞かせられていたので
ほんのちょっと知識や勘が私の脳にもこびり付くことになったのだった

祐美江も荘太朗も三年前の自動車事故で亡くなってしまい
残された娘の紘子はやはり私のべつの妻というべきうちのひとりの
細村キャリーに引き取られて今年から幼稚園に通い出しているが
それはそれ、思い出す度に心のキュッとなる痛切な思い出には違いない
これから会う清城マルロワール嬢にちょっと話してみたいような
話してしまいたいような気もするがまだ早いかもしれない

今さっきスマートフォンのひとつに届いたメールに
妻というべきさらにべつのひとりの上島三禮子から「明日の夕方に
ひさしぶりに軽くご飯いかが?」と誘いが来たが……
さあ、明日の予定はどうなるだろう?
私としてはマルロワール嬢と信州の別荘で涼しい時間を
などともう夢想し始めているのだが……




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