2019年9月10日火曜日

それだけのことだったかと




自動ドアが開く

エントランスに入る時
通路のむこうに他の住人ふたりが見えた
中年の女性と
その息子らしい若い太った男性

なんの問題もないが
蒸し暑い夜だったので
エレベーターに他人と乗り込まなければならないのが
面倒に感じる

こういうことを面倒に感じるじぶんの感情の動きを
面倒に感じる

自動ドアはふたつある
エントランスに入る時には
もうひとつ自動ドアを通らないと行けない

それを抜けると
20メートルほどか
通路を歩き
左に折れるとエレベーターホールに出る

おや?

だれもいない

来ていたエレベーターに
もう
あのふたりは乗って
上がっていってしまったわけか

待ってもくれずに……
と思う

すぐにエレベーターを呼ぶボタンを押す
すると
二基あるエレベーターが
ふたつとも同時に開く

あれ?

二基とも中は空だ
エレベーターの回数表示を見ても
二基とも一階を指している

階段ででも上がっていったのだろうか?

そう思うが
階段はエレベーターホールにはなく
エントランスからの通路の途中にある

通路のむこうに他の住人ふたりが見え
中年の女性と
その息子らしい若い太った男性だった
さっき見えたが……

そう見えただけだったか
と思い直す

それだけのことだったか

蒸す暑い夜だったので
いろいろなことに面倒を感じるじぶんの感情の動きを
面倒に感じる
のを
増やさないために
これだけの思いで止める

それだけのことだったか




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