あまりにうつろいやすいこの世にあって、
ジュリアン・グリーン*「日記」
facebookというのがあるが
あれはずいぶんぞんざいに使っている
だいたいは写真や短い動画だけを
一瞬二瞬程度の視線の早撃ちで見るだけ
ひとつの枠にのんびり止まっている暇はない
興味の惹かれる社会問題記事があると
リンク先をコピーして
ネット情報保存用のアプリに貼っていく
メモ用アプリもたくさん使っているが
リンク情報も日に数十は溜まるので
けっこう厖大な蓄積がある
だいたいはすぐには開けないし読まない
社会問題も政治問題も国際問題も
三週間ほど過ぎてから開くとよい
本当に重要かどうかにかかわらず
たいていは忘れ去られている
本当に重要かどうかはともかく
他人との話題としてはもう使えない
情報というものの非情さと不条理さが
厖大なリンク先の集積からは臭う
夕暮れだとか日の出だとか
ふとした時の空や街の風景だとか
そんなものを気まぐれに撮った写真は
自分からも発信することがある
ひろく見てもらおうとしてではなく
facebookは保存庫として便利だからだ
カメラやスマホに保存していても
機械は壊れもするし紛失もする
ネット上に流してしまえば
ネット情報は即私設倉庫となるから
他の端末からも自分の写真にアクセスできる
自分のクラウドに写真など保管したら
すぐに容量がパンクしてしまう
秘密にすべき内容はネットには流せないが
風景写真など秘密でもなんでもない
秘密の夕焼けや極秘の日の出が撮れたら
それこそ驚天動地である
真のプライベートが割れる内容は排除したり
最初から歪めたりしてから流す
日時も場所も季節も移して流す時もある
こういう点はたぶん万端怠りない
自分の意見表明になりかねない記事も
たまには書いて流すことがあるが
約６時間後には削除することにしている
これらの記事はごく数名の知りあいに向けたもので
その人たちだけが見てくれればいい
どの人もスケジュールがまちまちなので
６時間ほどの時間枠は取っておかないといけない
しかし６時間ほどしたら消さなければいけない
facebook以外のSNSでもいいのだが
なぜかfacebookしか使わない人たちなのでこうなる
しかたなくつき合ってのfacebook
そんな側面もある
ところが
つい先ほどのことである
ごく数名しかいないfacebook上の連携者たちの
全員の死去がわかった
伴侶からメッセンジャーで伝えられたものもある
SMSで伝えられたものもある
たまたま見た事件報道で知ったものもある
全員が今日死んだわけではないが
この数日のうちに立て続けて死んでいったのは確かだ
ある者のパートナーは
あなたも注意して。危険が近づいているはずだから。
と親切にも忠告してきてくれた
私の場合にはその者の命を奪ったような危険はないはずなので
親切めかしたお節介と友引の類の陰湿な心情表明なのだが
死んだ各人がみな同じような死に方をしたのではない以上
ヴァラエティーに富んだあらゆる手法を使うのを常とする運命の女
どんな誘惑や陥穽を仕掛けてくるかわからないのも確かだ
ファストフードチェーンでコーヒーを飲みながら
スマホでメールチェックをしていた男が
突然のスマホのバッテリーの爆発でひどい顔面損傷を負ったとの
ニュースを数週間前に見たが
運命の女神というのはこんな手を使って
彼女の宮殿へのふいの誘いを仕掛けてくるものなのである
いずれにしても
引きも切らず死者や世の中からの引退者の続く昨今
これでfacebookに短い記事を書く必要も失せた
夕暮れだとか日の出だとか
ふとした時の空や街の風景だとか
そんなものを気まぐれに撮った写真は
これからも発信することがあるだろうが
これらはもとより自分に向けての
自分の空中保存庫に向けての発信なので
あそこはいっそうの非コミュニケーションの具となっていくだろう
アーメン
0 件のコメント:
コメントを投稿