2021年2月26日金曜日

今になってはじめて

 

 

あの家では

玄関を入ってすぐ右に

幼いわたしの部屋への入り口があった

 

戸は襖だった

 

襖を開けると

子供机の右側が見え

机の脇下にはプラスチックのゴミ箱があった

ゴミ箱は横から見ると菱形に近く

台形と台形の底辺をあわせたようなかたちだった

上半分が赤く

下半分は黒かった

ふたつの部分は途中が螺旋式になっていて

そこを回転させて接合したり離したりできた

 

このゴミ箱には

本を読む時など足を乗せたので

重みで接合部分がよく外れた

それをくり返すうちに接合部分が壊れていって

割れてしまい

捨てなければならなくなった

 

しかし

わたしは今

まだ真新しいあの家の玄関から入り

わたしの部屋の襖を開けて

やはり真新しいゴミ箱を目の前に見ている

見直している

 

このわたしのゴミ箱について

これまで一度も思ってみたことがなかったこと

まだ29歳前後だったはずのわたしの親が

このゴミ箱をどの店で

他のものと比べて

どのように選んで買うことにしたのか

そして

家までどう運んできたのか

そんなことに

今は激しい興味がわく

 

わたしの

生涯でのはじめてのゴミ箱だったというのに

一度も思ってもみなかった

これらのことについて

ゴミ箱の由来について

耐えきれなくなるほどに

せつなく

激しく

悔悟のように

今になってはじめて

興味がわく





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