2021年8月20日金曜日

ひとりの維新といふもあるべく

 


満月も近い頃の

ゆうぐれ

南の遠くの空に

大きな台形の雲が立って

夕陽をあびて

あゝ 

燦然と

言っていいほどの

輝きだ

 

いつも

すぐ手にとれるようにしてある

Nikon

7×35の中型双眼鏡で

威容を眺めてみる

 

もう

25年ほどは

使っているのではないか

買ってすぐ

大阪の旅に持ち出して

大阪城の上から

これで眺めてみたことがあった

城の梅林が満開の

早春の頃のこと

 

少年時代には

天体観測の補助に

やはり

Nikon

7×50の双眼鏡を使っていて

昔の海軍で

ひろく使われていた

このナナバイゴジュウの見やすさを

楽しんでいたが

20代で家出せざるを得なかった後は

もう

それには触れていない

 

ひとが

親と呼び

家族と呼び

実家と呼んで

親しんだり

貴んだりするものに

たゞ不在によって対峙し

空無化した数十年を

燦然と

あの遠い雲の威容が

寿いでいる

 

 


 

青嵐(あおあらし)過ぎたり誰も知るなけむひとりの維新といふもあるべく 

             春日井健





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