2021年8月2日月曜日

リモートワーク奇譚


 

リモートワークが多くなってから

当然ながら怪異なものの映り込みも増えて

風が吹けば桶屋が儲かる式に

引越しも増えたという

もちろん怪異なものを避けて人が去った部屋に

自分の元の住まいの怪異から逃げてきた人が

わざわざ新たに越して来てしまう例も出てくる

 

いちばん多いのはモニターに映っている背後に

いないはずの誰かが顔を寄せてきているケースや

部屋の中の背後の空間に人影がよぎるケースだが

他の人たちのモニターに映っている自分の顔が

まったくの別人の顔にときどき変わることも多ければ

あるはずの自分の首が先方には見えないこともあったり

慌ただしくキーボードを打っていると

誰のものとも知れぬ手が伸びてきて邪魔をすることもある

 

ともあれ異界の扉は完全に開いてしまったのであり

大量の怪異の此岸への流入を伴いつつ

心おだやかならざる時間がしばらくは続いていくことだろう

電子機器というものが神霊とじかに繋がっていることは

いまさら思い出し直すまでもない常識だろうが

人の注意力をひとつところに長時間集めてしまう機器が

その人の背後や頭上や足下になにを呼び集めてしまうか

ときには注意し直してみたほうがいいかもしれない






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