別役実の戯曲のどれだったか
家庭の朝の食卓で
「また戦争があったよ」とか
「どこかでまた戦争があったよ」とか
「また戦争があったようだよ」とか
「どこかでまた戦争があったようだよ」とか
そんなセリフを
おとうさんが言う場面があったが
どの戯曲だったでしょうか?
あれは?
ちょっと
それみたいっぽいところも
ないでは
ないような
口調で
「またワクチンで死んだよ」とか
「どこかでまたワクチンで死んだよ」とか
「またワクチンで死んだようだよ」とか
「どこかでまたワクチンで死んだよ」とか
そんなセリフを
「節子」に語りかけている
なんとなく
『風立ちぬ』の「私」っぽい
この頃の
私
風立ちぬ
いざ生きめやも
なぁんちゃって
ちょっと
ろまんちっく
しちゃって
古風に
古風に
で
ふと
西条八十さんの「ぼくの帽子」も
思い出してしまうのは
別役さんの
どの戯曲だったでしょうか?
なぁんて
思ってしまったせい?
たぶん?……
ぼくの帽子 西條八十
―母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谿底へ落したあの麦稈帽子ですよ。
―母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあの時、ずいぶんくやしかつた、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。―
―母さん、あのとき、向から若い薬売が来ましたつけね。
紺の脚絆に手甲をした。―
そして拾はうとして、ずいぶん骨折つてくれましたつけね。
けれど、たうとう駄目だつた、
なにしろ深い谿で、それに草が
背たけぐらゐ伸びてゐたんですもの。
―母さん、ほんとにあの帽子、どうなつたでせう?
あのとき傍に咲いてゐた、車百合の花は
もうとうに、枯れちやつたでせうね。そして
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で、毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。
―母さん、そして、きつと今頃は、―今夜あたりは、
あの谿間に、静かに雪が降りつもつてゐるでせう、
昔、つやつやひかつた、あの以太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y・Sといふ頭文字を
埋めるやうに、静かに、寂しく。―
そうね
「だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。―」
吹いてくるのよね
いきなり
風が
ね?
堀さん?
いざ生きめやも
ね
いざ生きめやも!
ね!
ね!
ね!
ね!
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