住まいの玄関を出ると
しばらくは並木道が続いている
立ち並ぶ木々の間は
かなり広いところもあって
敷石もしていないものの
おのずと小径になっている
家からいくらも行かないうちに
小さな家がいくつか
並木道のわきに散見されるが
それらの家には
小径をたどっていくことになる
どの家も本当に小さく
各戸の玄関のドアをあけて
中を覗いたり
入り込んだりすると
一畳ほどのエントランスがあり
そこからみっつか
ふたつの部屋に行ける
部屋はたいてい3畳か
大きくても4畳半ほどで
これでは体を伸ばして寝ることさえ
むずかしいのではないかと思うが
住んでいるのは
ゼッペやロットやパロットら
小人たちなので
かれら住人にとっては
じゅうぶんな広さがある
なにせ身長は60センチ程度で
そんな彼らにとっての3畳や
4畳半というのは
なかなか豪華な広さなのだ
特に用事もなければ
もちろん彼らの家を訪れたりはしない
彼らとは誰とも親しいし
いい関わりを持っているが
各人いろいろと用事があるようなので
気を散らすようなことはしたくない
広範囲のことに興味を持っているうえ
たいへんな趣味人たちでもあるので
会いたい時には
テレパシーによる意志配信システムを使って
いつ頃がお手隙かな?と
事前に問い合わせをすることにしている
彼らの家に気を向けずに
並木道をまっすぐ行くと小川があり
細い流れなので
思い切って飛べば
向こう岸に難なく渡れてしまうほどなのだが
この細い小川が
じつは遠いピレナン山系から
じかに流れてきているもので
指先で水に触れてみれば
驚くほど冷たい
霊山の集まりであるピレナン山系だけあって
ちょっとした怪我などは
この小川の水を垂らせばだいたい治ってしまう
小人たちはこの川の水を
日ごろの飲み水にしているほどだ
彼らがほぼ永遠の命を保っていられるのも
なるほどと思わされる
もっとも背丈が伸びるような
そんな奇跡は起こしてくれないらしいが
小川にはもちろん橋もかかっていて
並木道から東へ少し逸れたところにある
わたしの家からその橋までは
ゆっくり歩いて行って13分ほどなので
時間のない時のちょっとした散歩には
この橋まで歩いて行って
そこからまた戻ってくれば
26分ほど歩いたことになるので
30分以内の散歩コースとして
よく利用したりしている
今日も
このあさまだき
橋まで行って
戻ってきたところだ
急に
世阿弥の花伝書の文句を
思い出した
妙とは
たへなりと
なり
たへなると云っぱ
形なき
姿
なり
形なきところ
妙体
となり