ジェータ林にいたブッダに
ひかり輝くひとりの神が近づき
言葉をかけた*
「きみよ、あなたは激流をどのようにして渡ったのですか?」
「友よ、わたしは、立ち止まることなく、あがくことなしに、
「きみよ。では、あなたはどのようにして、立ち止まることなく、
「友よ、わたしは立ち止まるときに沈み、
大げさな言い方をせずとも
ブッダは
ひじょうに重要なことを言っている
「立ち止まることなく、あがくことなしに」の重要性であり
配慮すれば
だれにでも不可能でない方法の伝授である
「立ち止まるときに沈み、あがくときに溺れる」ものだと
彼は教えている
なので
「立ち止まることなく、あがくことなしに」が
唯一のやりかたであり
最良のやりかたとなる
とはいえ
神が問うた肝要な点について
ブッダは答えていない
「あなたはどのようにして、立ち止まることなく、
と神は問うた
それに対し
「わたしは立ち止まるときに沈み、あがくときに溺れるのです。
とだけ
ブッダは答えている
「どのように」そうしたのか
そこを答えていない
ここでブッダは
これ以上の秘技も秘訣もない
「どのように」などと問わず
激流を渡り続けながら習得せよ
と伝えている
わたしは
そう受け取る
各人各様に
「立ち止まることなしに、あがくことなしに激流を渡」れ
と
とにかく
「立ち止ま」れば「沈み」
「あが」けば「溺れる」のが
わたしたち
激流渡りに出た者たちの本性であり
激流の本性である
激流のなかで
「立ち止ま」らず「あが」かぬ
渡りかたを
そのつど
そのつど
創り出しつつ渡っていけ
激流渡りの実践者の
実地の経験に根ざした
ひじょうに現実的な指導であると
思える
*『ブッダ 神々との対話 サンユッタ・ニカーヤⅠ』(中村元訳、岩波文庫、1986)、p
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