2022年12月18日日曜日

マカロニ・ウエスタン耽溺

 

 

「おれたちは違う道を来た。これからもそうだ」

『拳銃のバラード』(1967)

 

「夢を見るのもけっこうだ。ただし、目を開けて見ろ」

『豹/ジャガー』(1968)

 

「人の命は高くない。短いだけさ」

『リンゴ・キッド』(1966)

 

 

 

 

中学生の時

友人数人たちと

嵌まりに嵌まりまくったのは

マカロニ・ウエスタン

 

フランコ・ネロが

いつも引っぱっている棺桶に隠していた

マシンガンで

映画の最後に悪漢どもを殺しまくる

『続・荒野の用心棒(ジャンゴ)』も

快感だったが

やっぱり

セルジオ・レオーネの“ドル箱三部作”

『荒野の用心棒』

『夕陽のガンマン』

『続・夕陽のガンマン』への

われら中学生たちの没入ぐあいは

ただ事ではなかった

 

毎朝

出会うたびに

腰に挿している想定の

エアー拳銃を抜いて

エアー早撃ちを競いあうところから

日々の学校生活は

始まったものである

バーン!

なんていう

子どもっぽい単純な音を出すのではなく

ズダキューン!

ズキューン!

などと

発射音を工夫して口マネし

臨場感も競ったものだ

 

ユーモアのある

『続・夕陽のガンマン』は

とりわけ

ぼくのお気に入りだった

DVDが普通に買える時代になってから

さっそく手に入れたDVDの一枚は

もちろん『続・夕陽のガンマン』だった

テレビで放映されるような

あちこち

カットされた情けないバージョンでなく

しっかり全編を

好きなだけ

何度でも

停止したり

戻したりして

くり返して見られるようになった時の

天にも昇るような喜びは

まこと

忘れがたい

 

クリント・イーストウッド演じる

名無しの男という主人公のひとりを

くりかえしくりかえし

さんざん見ておいたのは

南北戦争時代の狂ったアメリカよりひどい

狂いに狂った平成令和ニャッポンを

横目に見ながらやり過ごしつつ生き抜くのに

絶大な効果を発揮した

 

イーライ・ウォラック演じる

愚かであると同時に

こすずるいことこの上ない

「汚ねえ奴」こと

チュコとの珍道中で

イーストウッド演じる「名無しの男」は

さんざんな目に遭わされるが

バカといっしょにいると

ホント

ろくなことはない

と言いながら

煙草を

口の右から左

左から右へ

年中動かしながら

忍耐強く耐えていく姿が

中学生には

これ以上望めないような

とてもいい人生の模範となったものだ

 

『荒野の用心棒』の原題が

イタリア語だと「Per un pugno di dollari

英語だと「 A Fistful of Dollars」と

「ひと掴みのドルのために」という意味なのは洒落ているし

それに続く『夕陽のガンマン』の原題が

「もう数ドルのために」という意味の

Per qualche dollaro in più

 For a Few Dollars More」というのも

すごく洒落ている

 

『続・夕陽のガンマン』は

Il buono, il brutto, il cattivo

The Good, the Bad and the Ugly」で

「いい奴、悪い奴、卑怯な奴」という

ちょっと

皮肉なポエジーに欠けるタイトルになっているが

映画としては最高傑作になっている

 

生き続けて

身過ぎ世過ぎしていくうちに

この世っていうのは

ハードボイルドの

マカロニ・ウエスタンの舞台みたいなものに過ぎないと

よぉく

わかったが

そんな枠をはめて

見ることができるようになったのも

中学生時代の

マカロニ・ウエスタン耽溺の

おかげと言える

 

マカロニ・ウエスタンが

精神の根底にあるおかげで

なにが起ころうと

ユーモアも皮肉も失わず

この世のすべては

しょぼい喜劇に過ぎないと思っていられるのが

なによりの強みである







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