2022年12月18日日曜日

小さな道具

 

 

煙草を

じぶんは吸わないのに

吸う気にもならず

健康によくないとも思うのに…

 

若い人が

言っていた

 

小津安二郎の

『浮草』の

映画のお終いのところで

京マチ子が演じるすみ子が

中村鴈治郎の演じる駒十郎の煙草に

火をつけてやる場面

 

なぜ

あれほど

魅力的に見えるのか

 

ぼくも

煙草

とうの昔から

吸わなくなったけれどね

 

煙草

いいと思ったことも

ないけれどね

 

でも

ある程度以上の

繊細さを帯びるようになった文化は

言葉で言いづらいような

思いや感情を

それとなく伝え

漂わせる

小さな道具を

あれや

これやと

備えるようになるもの

 

煙草というのも

そんな道具だったのでしょう

 

煙草に火をつけるだけで

ひとくち

煙を吐き出すだけで

どれだけ

贅言しないで済んだことか

 

どれだけ

ものを書かないで

済んだことか





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