2022年12月10日土曜日

物原

 

 

キムラブルー

と呼ばれる青い陶器

で有名な

陶芸家の木村芳郎さんと話した時

モノハラ

という言葉を

はじめて聞かされた

 

物原

と書くらしい

 

陶工や陶芸家は

窯で陶磁焼成した後

窯出しの時に出てくるキズモノや

思うようにいかず

不出来だったものを

粉々に破壊して

捨てる

 

捨てる場所を

物原

というのだ

 

有名な陶工や

陶芸家が

砕いて捨てた破片なら

拾いあつめ

金継ぎなどして

つなぎ合わせたら

それだけでも

価値が出る

 

だから

物原では

捨てた破片は拾わないのが

礼儀となる

 

現代では

行政からの要請もあって

捨てる際には

ずいぶん

細かく砕くのだという

 

物原の話を聞くうち

子どもの頃

拾いあつめた土器のことを

思い出した

住んでいたところの近くにあった貝塚から

ちょっと土を掘れば

いくらでも

出てきた

 

土器の時代の人たちが

使っているうちに壊れた土器のかけらを

ゴミとして

貝塚に捨てたのだと

思いながら

拾い集めたものだった

 

しかし

ひょっとしたら

古代の陶工や陶芸家が

自分の思うようにできなかった土器を

すぐに

みずから壊して

物原に捨ててしまう

ということも

あったのではないか

 

縄文や弥生の頃にも

芸術的な志向があったのは確かだから

作ってはみたものの

作り手自身が気に入らない

という作品も

いくらもあっただろう

そんな時に

みずから割って

砕いて

地に戻そうとしてしまう

そんなことも

きっと

あったにちがいない

 

そんなふうに

木村さんに話すと

縄文や弥生の頃にも

たしかに

そんなことはあったかもしれない

現代ふうな作家性や

芸術性の観点から

というのとはちがっても

実用の観点からでも

せっかく出来たものを壊して

やり直すということは

じゅうぶんあり得る

当然あり得る

と答えてくれた

 

こんなことを含め

ずいぶん長く立ち話したのは

2022年11月の

日本橋三越本店6階美術特選画廊の

木村芳郎陶展*でのことだったが

東広島にある

木村さんの工房に

ぜひ

いらっしゃい

と言ってくれた

照明にも制限のある展示場で

並べた作品を見せたり

話して説明したりするだけでは

やはり

もどかしい

百聞は一見に如かずで

作っている現場を

じかに

見るに越したことはない

ということだろう

 

東広島には

行ったことがない

こういうきっかけでもなければ

行くことはないだろう

吟醸酒発祥の地

という謳い文句もあるが

なるほど

賀茂鶴や

亀齢などは

この町で作られる

俳人河東碧梧桐が

酒の新都と呼び

「日本酒の最高峰をここに築く」

と紹介したこともある

 

 

 

 

*「木村芳郎陶展 ―水平線―」(2022年11月23日~11月28日、日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊)




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