2021年7月23日金曜日

あれば


 

うちのヴェランダから

ブルーインパルスの編隊飛行がよく見えた

五色の煙を

つかのま

虹のように引いて

オリンピックなどというものとは

関係なしに

空飛ぶ精巧な機械として

のびのび

飛んで行った

 

ブルーインパルスなら

次の特攻では

もっとうまくいくだろうか

よく腕を

磨いておいてほしい

数機しかないのだから

敵中枢を確実に破壊する知性と計画性が

ほしいね

 

“お国”のために死ぬのは

ほんとうに

ほんとうに

大事なこと

きみらにとっての

“お国”と呼びうる“お国”が

あれば

だけれど

そう呼びうる“お国”がなければ

きみらの生とは

なにか

 

まさか

“お国”の薄皮の裏に

アベシンゾウが透けて見えるような

“お国”じゃあ

ねェ

 

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

 

ねェ、寺山さん?

 

 

アベシンゾウが断じて透けて見えないような

“お国”

という神話システム

それなくして

個はあり得るか

ね?

三島さん?

 

ブルーインパルスを

見たら

ひさしぶりに

思い出してしまったよ

啄木さん

あなたの詩「飛行機」を

 

 

  行 機  1911.6.27.TOKYO.

  見よ、今日も、かの蒼空に
  飛行機の高く飛べるを。

  給仕づとめの少年が
  たまに非番の日曜日、
  肺病やみの母親とたつた二人の家にゐて、
  ひとりせつせとリイダアの獨學をする眼の疲れ……

  見よ、今日も、かの蒼空に
  飛行機の高く飛べるを。

 

 

あゝ、そうだ

「リイダア」といえば

有名な戦争歌人、渡辺直己が

宮柊二と同じく山西省での激戦のさなか

なかなかしぶとかった敵を陥落させて乗り込んだ際に

泥にまみれて

英語の教科書のリーダーが落ちていたのを見た歌があった

 

頑強なる抵抗をせし敵陣に泥にまみれしリーダーがありぬ

 

敵の中国兵の中に学生がいて

戦場へも英語のリーダーを持ってきていたのだろう

戦闘の合間合間に勉強していたのか

渡辺直己は広島高等師範学校(後の広島大学)を出て

呉で国語教師をしていて徴兵されたので

激戦の後で乗り込んだ敵の陣地に落ちていた英語の教科書を見れば

こんな戦場でも勉強をしている敵の学生兵のことも思われ

教師として

感じるところは多かっただろう

 

ブルーインパルスなら

次の特攻では

もっとうまくいくだろうか

 

“お国”のために死ぬのは

ほんとうに

ほんとうに

大事なこと

きみらにとっての

“お国”と呼びうる“お国”が

あれば

 

あれば





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