わたし
という言葉を使うのは嫌だったし
ぼく
というのもじつはぴったり来なかった
(教える仕事をしていた頃
(「若菜ちゃんは…」と自称する若菜ちゃんがいて
(子供っぽくてすこし困ったが
(数年後に妻になった
(子供をふたり産んで若菜ちゃんは急死したが
(この話はだれにもしたことがない
(もう1620年前のことだし……
なので
まだ「若い」と言っていい頃から
「わたし」と「ぼく」は埋葬してしまった
(カッコを取ってもう一度書く
わたしとぼくは埋葬してしまった
幻想を語ったことはない
若菜の産んだ子はミドリとハズキだが
主語代名詞を埋葬してしまった父は今もむかしも
ふたりを訪ねると
父だよ
と玄関で言う
父だよ
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