2021年7月24日土曜日

『ティファニーで朝食を』のHolly Golightlyのように

 

 

そういうけど、喜びがなくなっても、ただ生存し続けるわ。

ただ漫然とね。そのことに気づいても、自殺はしない。

ルキノ・ヴィスコンティ『イノセント』

 

 

 

なに憚ることもなく

だれに憚ることもなく

この世にたったひとりの友もいなければ

共感やたがいの理解のわずかの可能性のありうる人もいない

と言えるぼくなので

「ムーン・リヴァー」*の歌詞にある

Two drifters,
Off to see the world,
There’s such a lot of world
To see.
などというのを思い出すと

ありえない夢を垣間見させてくれるようで

ちょっと胸がキュウッとなる

Waitin’ round the bend,
My huckleberry friend,
Moon River
and me.

なんていうのも

ぼくほどに徹底して孤独な者には

痛切に響く

ハックルベリ―・フレンドなんて呼べるような友を

たったひとりも持っていない

孤絶のきわみの

ぼくなどには

 

ぼんやりと聴いていた頃には

「ムーン・リヴァー」は

恋愛の曲かと思っていたが

ある時よく聴いてみたら

馴染みの河に向かって歌っているわけで

そう知ってからは

映画『ティファニーで朝食を』のあの決定的な冒頭で**

ショーウィンドゥーを見ながらパンを齧る

オードリー・ヘップバーンの姿とともに流れるのも

なるほどよくわかるようになり

そこだけ何度も見直すようになった

 

オードリー・ヘップバーンは

あまりに有名過ぎて

あまりに取り沙汰され過ぎて つまり

あまりに通俗化され過ぎて

とにかく他人となにも共有したくないぼくにとって

好きではない女優のひとりだったが

『ティファニーで朝食を』の冒頭を見直すうちに

じつはオードリー・ヘップバーンのあの場面のような

あのようなしぐさをする女性だけを愛していたのか!

と気づくようになった

オードリー・ヘップバーンが好きではないのだが

『ティファニーで朝食を』冒頭の

オードリー・ヘップバーンだけが好きなのだ

なぜならあれがぼく自身のほんとうの自画像だから

そう気づくようになった

 

そう気づきながら

Two drifters,
Off to see the world,
There’s such a lot of world
To see.
などと聴き直し

いつのまにか

drifter

でしかないぼくに

すっかりなってしまったんだなあ

と思うと

国の雰囲気もまったく愛せず

民の特性にも吐き気するばかりで

たまたま滞在した時代には違和感しか覚えられず

まわりにも誰ひとり共感できる人もいなければ

尊敬できる人も

モデルにできる人も

たったのひとりさえいなかった

一から十まで

すべてムダのムダのムダに終わったこの列島での人生も

ひょっとしたら

『ティファニーで朝食を』のHolly Golightlyのように

それなりの行き損ないの型だけは

体現していたのか

と思えて

来ないでもない

 

でもね

もう二度と来ないよ

 

死んだあと

なにかの気まぐれから

生まれ変わって来るような際には

 

この列島にはね

もう二度とね

 

 

 

 

*Moon River (Lyric: Johnny Mercer. Music: Henry Mancini.1961)

 

Moon River,
Wider than a mile:
I’m crossin’ you in style
Some day.
Old dream maker,
You heart breaker,
Wherever your goin’,
I’m goin’ your way:
Two drifters,
Off to see the world,
There’s such a lot of world
To see.
We’re after the same
Rainbow’s end
Waitin’ round the bend,
My huckleberry friend,
Moon River
and me.

https://www.youtube.com/watch?v=C9YDR1260Zc


**https://www.youtube.com/watch?v=JuimqB3ofEI







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