夕食後の食器洗いは
だいたい
24時頃にやることになる
金曜日の夜
流しに向かおうとして
ふと
「今日は金曜日か
そうか
以前なら
テレビで『タモリ倶楽部』を
やっていた時間だ」
と思った
1982年から続いていて
2023年に終わった
徹底してどうでもいい内容ばかりの
とにかく面白い
めずらしい番組だった
いつも見ていたわけではない
金曜日の夜は
遅くまで仕事があって
その後は職場の人たちと飲んで
井の頭線や小田急線で
終電で世田谷まで帰っていた頃も
長かった
新宿東口の喫茶店「カプチーノ」で
美術史家になる前の宮下誠と
文芸や美術や哲学について
毎週のように遅くまでしゃべったのも
金曜日の夜だった
「カプチーノ」のホール係は
プロ意識の高い青年で
コーヒーの置き方が見事だった
あの頃から約14、5年後に
宮下誠は自殺を遂げることになった
ふり返ってみれば
毎週のように『タモリ倶楽部』を
見るようになった期間は
10数年ほどだったか
この番組が終わってから
この列島の
小さな世では
ずいぶんと
いろいろなものが
悪くなってきてしまった
前から悪くなっていたのだが
『タモリ倶楽部』が
毎週毎週の気散じをして
プチ厄払いのような
ことをしていた
1982年から
2023年までの間に
わたしが意識して
それなりにつき合ったり
議論したり
対立したり
和したりした人たちのうち
20数人がもう逝った
そのうち13人ほどは
自殺だった
ルイ=フェルディナン・セリーヌの
『夜の果てへの旅』*の最後を
ときどき
思い出すのだ
「遠くでタグボートが汽笛を鳴らした
その音は橋を過ぎ
さらにひとつ
橋のアーチを過ぎ
ほかのを過ぎ
水門を過ぎ
また他の橋を過ぎ
遠くへ
もっと遠くへ……
そうして川船ぜんぶを呼び寄せ
街ぜんぶを呼び寄せ
空を呼び寄せ
野原を呼び寄せ
わたしたちも呼び寄せ
すべてを
セーヌ河さえも
なにもかも
引き連れていってしまおうとして
もう
いいかな
これらについて
さらにもっと
しゃべる
なんてこと
しなくても」
*Louis-Ferdinand Céline « Voyage au bout de la nuit », 1952
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