2025年1月11日土曜日

金曜日の夜


  

 

夕食後の食器洗いは

だいたい

24時頃にやることになる

 

金曜日の夜

流しに向かおうとして

ふと

「今日は金曜日か

そうか

以前なら

テレビで『タモリ倶楽部』を

やっていた時間だ」

と思った

 

1982年から続いていて

2023年に終わった

徹底してどうでもいい内容ばかりの

とにかく面白い

めずらしい番組だった

 

いつも見ていたわけではない

金曜日の夜は

遅くまで仕事があって

その後は職場の人たちと飲んで

井の頭線や小田急線で

終電で世田谷まで帰っていた頃も

長かった

 

新宿東口の喫茶店「カプチーノ」で

美術史家になる前の宮下誠と

文芸や美術や哲学について

毎週のように遅くまでしゃべったのも

金曜日の夜だった

「カプチーノ」のホール係は

プロ意識の高い青年で

コーヒーの置き方が見事だった

あの頃から約145年後に

宮下誠は自殺を遂げることになった

 

ふり返ってみれば

毎週のように『タモリ倶楽部』を

見るようになった期間は

10数年ほどだったか

 

この番組が終わってから

この列島の

小さな世では

ずいぶんと

いろいろなものが

悪くなってきてしまった

 

前から悪くなっていたのだが

『タモリ倶楽部』が

毎週毎週の気散じをして

プチ厄払いのような

ことをしていた

 

1982年から

2023年までの間に

わたしが意識して

それなりにつき合ったり

議論したり

対立したり

和したりした人たちのうち

20数人がもう逝った

そのうち13人ほどは

自殺だった

 

ルイ=フェルディナン・セリーヌの

『夜の果てへの旅』*の最後を

ときどき

思い出すのだ

 

「遠くでタグボートが汽笛を鳴らした

その音は橋を過ぎ

さらにひとつ

橋のアーチを過ぎ

ほかのを過ぎ

水門を過ぎ

また他の橋を過ぎ

遠くへ

もっと遠くへ……

そうして川船ぜんぶを呼び寄せ

街ぜんぶを呼び寄せ

空を呼び寄せ

野原を呼び寄せ

わたしたちも呼び寄せ

すべてを

セーヌ河さえも

なにもかも

引き連れていってしまおうとして

もう

いいかな

これらについて

さらにもっと

しゃべる

なんてこと

しなくても」

 

 


 

*Louis-Ferdinand Céline « Voyage au bout de la nuit », 1952

 

 




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