2025年1月22日水曜日

氷点下の露天風呂

 

 

 

学生が作った短歌を見ていたら

箱根に旅をして

早朝に露天風呂に入った

という歌があった

 

どうにかこうにか三十一音に近づけた

うまくない歌だったが

もうだいぶ昔

早春の

まだまだ寒い頃

妻と行った箱根の小ホテルを

思い出させられた

 

フレンチのディナーが自慢

という宿だったが

それほど特別な料理でもなくて

ちょっと肩すかしを食った感じだったが

日の昇る前

早朝に起きて

枯れた森や草原を見はらせる露天風呂に

ひとりで何度か入った

 

早朝の箱根だから

氷点下なのだが

裸になって露天の風呂に入ると

それはそれで

趣があった

 

まだ暗いうちから

氷点下の外で裸になって

湯に浸かるのは

充実しているような

さびしいような

奇妙な気持ちで

こういう時の気持ちを

十分に表現できるようになりたいと

その頃は思っていた

 

湯槽に浸かりながら

湯を波立たせて

縁からちょっと湯を流してみる

いたずらのような

そんなことをしながら

温泉に浸かるということを

掴み取ろうとしてみる

そうすると

人間の生というものの

ほのかな悲しさのようなものを

感じるようだった

川端康成ならば

こんな気持ちは

きっとよく描けただろう

などと思った

 

ホテルの

あまりたいしたことのない庭を

朝食後に歩くと

マンサクの花が咲いていて

また春が来る

などと思ったりした

他には

まだ花らしきものは

なかった

 

温泉に行くと

こんな小さな発見や

小さな散策などをしながら

なにか見つけたつもりになったり

ちょっとは楽しんだつもりになったりするが

せっかく遠出して来たのだからと

けちな楽しみを

しかたなしに

拾いあつめてみているようで

いつも

むなしさが伴う

 

やりたいのは

こんな旅や

ちっぽけな楽しみの拾いあつめではないのに

と思いながら

それでも

こりもせずに

どうということもない

つましい小旅を

重ねていた頃のことだった





0 件のコメント: