学生が作った短歌を見ていたら
箱根に旅をして
早朝に露天風呂に入った
という歌があった
どうにかこうにか三十一音に近づけた
うまくない歌だったが
もうだいぶ昔
早春の
まだまだ寒い頃
妻と行った箱根の小ホテルを
思い出させられた
フレンチのディナーが自慢
という宿だったが
それほど特別な料理でもなくて
ちょっと肩すかしを食った感じだったが
日の昇る前
早朝に起きて
枯れた森や草原を見はらせる露天風呂に
ひとりで何度か入った
早朝の箱根だから
氷点下なのだが
裸になって露天の風呂に入ると
それはそれで
趣があった
まだ暗いうちから
氷点下の外で裸になって
湯に浸かるのは
充実しているような
さびしいような
奇妙な気持ちで
こういう時の気持ちを
十分に表現できるようになりたいと
その頃は思っていた
湯槽に浸かりながら
湯を波立たせて
縁からちょっと湯を流してみる
いたずらのような
そんなことをしながら
温泉に浸かるということを
掴み取ろうとしてみる
そうすると
人間の生というものの
ほのかな悲しさのようなものを
感じるようだった
川端康成ならば
こんな気持ちは
きっとよく描けただろう
などと思った
ホテルの
あまりたいしたことのない庭を
朝食後に歩くと
マンサクの花が咲いていて
また春が来る
などと思ったりした
他には
まだ花らしきものは
なかった
温泉に行くと
こんな小さな発見や
小さな散策などをしながら
なにか見つけたつもりになったり
ちょっとは楽しんだつもりになったりするが
せっかく遠出して来たのだからと
けちな楽しみを
しかたなしに
拾いあつめてみているようで
いつも
むなしさが伴う
やりたいのは
こんな旅や
ちっぽけな楽しみの拾いあつめではないのに
と思いながら
それでも
こりもせずに
どうということもない
つましい小旅を
重ねていた頃のことだった
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